研究者になって科研費をはじめて申請する人へのアドバイス

 無事に学位を取得して研究者としての一歩を踏み出すと、毎年涼しくなった頃に科学研究費補助金(科研費)の申請書作成を行う機会が訪れます。研究者にとって「科研費の申請書」は秋の季語のようなものです。
 ここでは、これまで研究代表者としていくつかの科研費に採択され、また、科研費の書面審査委員を2年間務めた経験から、申請書の作成のためのアドバイスを書きたいと思います。
 なお、以下のアドバイスは、学位を取得したばかりの若手研究者が、指導教員の呪縛からようやく解き放たれて個人ベースで研究を行う際に応募がふさわしいと思われる、若手研究(A、B)、基盤研究(B)、基盤研究(C)、挑戦的萌芽研究の種目を想定したもので、それより上位の種目については当てはまらない場合があります。
 また、私自身、人から科研費の申請書の書き方を教えて貰ったり、人に申請書を読んでもらったりした経験が全くないので、以下に書くことは独断と偏見に基づいている可能性があります。ウェブで検索すれば、申請書の作成のアドバイスをしているページがほかにたくさんあると思いますので、是非とも、それらも参考にすべきだと思います。

はじめに

 科研費の申請書(正確には、研究計画調書)の審査は2段階あります。第一段階は書面審査です。複数の審査委員が申請書のいろいろな項目に得点(4点満点の絶対評価)を付けますが、最終的に5段階の相対評価をします。一人の審査員が審査する同じ種目の全申請書の中で、良い順に5点が10%、4点が20%、3点が40%、4点が20%、1点が10%という割合に配分します。第二段階は合議審査で、書面審査とは異なる複数の審査委員が審査します。基本的に第一段階審査の結果が尊重されますが、採否のボーダーライン上にある申請書はこの段階でさらに厳密に再審査されるようです。したがって、応募者は第一段階の書面審査で良い点を付けてもらえるような申請書を作ることだけを気にすればよいのです。
 科研費の書面審査の審査委員を引き受けると、審査委員によりますが70件程度の書類を審査することになります。ヒーヒー言いながら一日中かけて、7件前後の申請書を審査できるとしても、全ての審査を終えるのに10日はかかります。
 アドバイスすると言って、こんなことを言っては元も子もないのですが、科研費に採択される“コツ”というものは、正直なところ、ほとんどないと思います。巷に「論文の書き方」という類の本はたくさんありますが、「科研費申請書の書き方」という類の本は非常に少ないのはそういうことだと思います。研究計画で、多少論理の飛躍があったり、部分部分に意味が分からない文章があったとしても、全体的に素晴らしい研究計画であれば、それらの欠点はカバーされてしまいます。
 コツがあるとすれば、研究計画を読んだ審査委員が、「この研究は重要だ」、「この研究は面白い」と思わせる文章を“作る”(≠文章を書く)ことです。科研費の申請書に書く研究計画というのは、基本的に自分の中で実現可能性が高いと思う内容であるべきだと思いますので、絵空事ではない内容で面白い文章を“作る”ことは難しいものです。また、審査委員は役人でもなく、学問の素人でもなく、応募者と同じ研究者(ここを意識することが最も重要)です。
 以上のことを踏まえて、申請書を作成する際に注意すべきことと心構えがいくつかあると思います。以下ではそれを書きたいと思います。

科研費に申請することの利点

 ここで言われなくても、周囲の研究者の背中を見ていれば自ずと分かると思いますが、学位を取得して間もない若手研究者が科研費に申請することの利点は以下の通りです。@「研究代表者」として科研費の獲得実績があれば、他機関の教員の公募に応募するときに履歴書に書ける。すぐに転出を考えていない場合でも、所属機関内の自分の評価が上がる。大学によっては、応募書類に「外部資金獲得歴」を提出するように書いている公募もある。この実績があると「若い研究者なのに科研費をしっかり獲れる(=それなりの研究業績がある、また、公的な書類がきちんと書ける)人なんだな」と思ってもらえる。A研究者自身が研究のために自由に使える「直接経費」のほかに、所属機関の研究環境を整備するために使える「間接経費」も割り当てられる。研究環境が良くなると回り回って「間接的に」自分のためにもなる。また、公募の応募先の研究者や事務には「この人をうちで雇えば、お金を背負ってきてくれる」と思ってもらえて、採用される可能性が高まる。B所属機関が設定した研究目標のほかに、自分の好きな研究ができる。逆説的に言えば、所属機関の決裁をもらって科研費に応募し、採択されたのだから、自分の好きな研究をする権利が保障される。C科研費獲得のノウハウを習得すれば、次世代の若手研究者にそのコツを伝授できる。その若手研究者が成果を出して活躍してくれれば、結果的に自分の学問分野の発展に繋がる。すると、自分が将来応募する科研費も採択されやすくなるかもしれない。D研究計画を熟考して、きちんとした文章にすることで、定期的に自分の研究を客観的に顧みることができる。E科研費が採択されると、その研究が自分の分野や周辺の分野の複数の研究者から、完全にとは言わないまでも、大筋で認められたことになり、研究に対する士気が高まる。F立派な申請書を応募すれば、採否はともかく、審査委員に「こういうことを考えている研究者がいるんだ」と認知され、いずれ何かいいことがあるかもしれない。――以上のようなところだと思います。

申請書全体の印象

 科研費の書類審査をしてまず感じたのは、審査書類を一通りペラペラと眺めたとき、第一印象として、文字の書体、サイズはもちろん、重要な箇所に下線を引いたり白抜きの文字にしたりといった点では、ほぼ全て(少なくとも95%以上)、どの申請書も似たり寄ったりで、すごく真摯に一生懸命書かれているなということです。申請書類は応募者によってもっと個性があるのかと思っていました。まあ、申請書の外見に突飛な個性を出したところで、それが審査委員の心理に悪影響を及ぼすリスクがあることを考えると、これは当然のことでしょう。普通に申請書を書くと、書体は明朝体になるはずなので、たまにゴシック体で書かれた申請書があると、申請書の色が濃く見えるので、一瞬目にとまります。
 もう一つ意外だったのは、ほぼ全て(少なくとも90%以上)の申請書で、どの項目の欄も文章を最後の一行まで、あるいは、二、三行程度を残しただけで、ほぼびっしりと埋めていることです。研究計画が具体的に書かれていれば、別に最後の一行まで埋める必要はないと考える審査委員ももちろんいると思います。しかし、私個人的には、科研費の申請書に限らず、びっしりと文章が埋まった書類を見ると、それを書いた人の熱意がひしひしと伝わってきて、読んでいて楽しいです。逆に言えば、空欄が目立つ申請書はすごく目にとまります。自分の研究計画をアピールする点はいくらでもあるだろうに、それを自ら放棄しているような申請書は、正直なところ、誰が読んでも印象はかなり悪いと思います。この人は本当に研究費が欲しいのだろうか、それとも、所属機関の事務や研究者の上司にそそのかされて嫌々応募しているだけでは…と勘ぐりたくもなります。

申請書に埋め込む図表

 全ての種目の申請書は審査委員にモノクロ印刷で配布されます。従って、申請書の各項目に埋め込む図表もモノクロになります。たまに、カラーの図表を画像処理ソフトでそのまま白黒に変換して埋め込んでいるのか、あるいは、カラーの図表が埋め込まれた申請書がモノクロ印刷されているのかどちらかと思いますが、色が潰れたりして見にくい図表があります。従って、申請書に埋め込む図表は一から白黒で作成し直した方が良いです。
 また、図表が縮小されて文字が小さくなり、読みにくいものも結構あります。図表を一から作成し直すときに、文字サイズにも気を付けましょう。図表の中の文字のサイズは「ちょっと大きすぎるかな?」と思うくらいがちょうど良いと思います。申請書の印象を下げるような見にくい図表を埋め込むくらいなら、入れない方がましだと思います。

申請書を作成するときの心構え

 ほとんどの人は、自分の研究の時間を割いて科研費の申請書を作成するのは重い腰を上げる気持ちになることになるだろうと思います。特に、固体地球科学の場合、申請書を作成する時期はちょうど学会のシーズンと重なります。ただ、これを「面倒」と思った時点で、採択率は低くなると思います。これは、決して精神論を言っているわけではなく、数ページ程度の研究計画をサラッと書けないようでは、普段から長期的な視点を持って研究に取り組んでいない証拠で、結果的に、学術的にレベルの高い申請書がかける見込みは小さくなるということです。ある人は「自分が読んで面白いと思わない申請書は、審査委員が読んでも面白くなく、採択されるわけがない」と言いますが、その通りだと思います。研究計画をいつでも楽しく書ける研究者を目指しましょう。また、普段から、英語論文だけではなく、丁寧な文章で書かれた日本語論文を読んでおくこともお勧めします。

研究分担者の役割

 若手研究者が出す科研費の種目にはあまり関係ないかも知れませんが、特に観測を中心とした大型の研究の場合に、たまにものすごい人数(20人以上など)の研究分担者を記載している申請書があります。研究分担者の数自体が審査に影響を及ぼす可能性はほぼないのですが、研究計画を読んでも、研究分担者の役割分担が不明な場合が多いです。役割分担は文章で説明するのではなく、図表を使って分かりやすく、できるだけ具体的に説明した方が絶対に良いです。申請書の但し書きにも「研究代表者、研究分担者の具体的な役割(図表を用いる等)、…」と書かれています。そうしないと、「単に研究者の頭数を揃えて、あたかもいろいろな研究分野や年齢や所属の研究者が参画しているかのように見せかけているだけでは?」、「これまでの研究の単なる延長で機械的に研究分担者に加えているだけでは?」と勘ぐられる可能性があります。

「研究目的(概要)」と「研究計画・方法(概要)」

 研究目的と研究計画・方法の「概要」を各欄があります。それぞれ、8行くらいだと思います。この「概要」は、多くの書類を審査する審査委員がそれぞれの申請書全体の要点を手っ取り早く把握して、審査の効率を上げるためにあります。この二つの欄は申請書の顔と言ってもいいくらい最も重要なところです。注意する必要があるのは、この「概要」の欄で述べられていることが、必ず、「研究目的」と「研究計画・方法」に具体的に書かれていることです。文章の作成の基本ルールとして、「研究目的」と「研究計画・方法」に書かれていない新しいことを「概要」に書いてはいけません。私個人的には、この「概要」の部分をきちんと書けるかどうかで、その研究者が論文を書ける力量があるかどうかが分かると思っています。

日本語

 些細なことですが、科研費の申請書に限らず、日本語が何か気になる書類がたまにあります。一つの原因として、パソコンのワープロソフトで文字変換を行うとき、うっかりするとわざわざ漢字で書く必要のない語句まで漢字に変換してしまうということが挙げられます。漢字で書ける語句をひらがなで書くことを出版業界で「漢字を開く」といいます。漢字が目立つ申請書は、正しく使われていれば格式が高い印象を受けますが、一方で、読みにくくなったり、固く、古く感じたりして、多くの申請書を読む必要がある審査委員の印象がマイナスの方向に働く場合もないとは言えないと思います。私たち研究者も新聞やネット記事の文章を読み慣れています。「最先端の研究をやろうとしているのに、文章の書き方が何か古くさい…」と思われると損です。以下では、申請書によく使いそうな語句で開いたほうが良いのではないかと私が思う語句を列挙したいと思います。
 「敢えて→あえて」、「予め→あらかじめ」、「何れ→いずれ」、「色々→いろいろ」、「〜する上で→〜するうえで」、「且つ→かつ」、「〜して来た→〜してきた」、「〜する位→〜するく[ぐ]らい」、「〜する毎→〜するごと」、「様々→さまざま」、「更に→さらに」、「かも知れない→かもしれない」、「沢山→たくさん」、「但し→ただし」、「私達→私たち」、「〜する度→〜するたび」、「因みに→ちなみに」、「並びに→ならびに」、「それ程→それほど」、「殆ど→ほとんど」、「勿論→もちろん」、「元々→もともと」、「様に→ように」、「分る→わかる」。
 以下は、文章の流れによって、開いても開かなくてもどっちでもよいと思う語句です。
 「幾ら→いくら」、「一旦→いったん」、「各々→おのおの」、「及び→および」、「従って→したがって」。
 もう一つの原因としては、日本語と英語の混在があります。
 × 地表から沈み込んだプレートはマントル遷移層でstagnant slabを形成し、やがて下部マントルに崩落する。
 ○ 地表から沈み込んだプレートはマントル遷移層でスタグナントスラブを形成し、やがて下部マントルに崩落する。
 △ 地表から沈み込んだプレートはマントル遷移層でスタグナントスラブ(stagnant slab)を形成し、やがて下部マントルに崩落する。
 鉱物や結晶構造の名前もカタカナで書くべきです。
 × 地球の下部マントルは主にperovskiteとmagnesiowustite相から構成されている。
 ○ 地球の下部マントルは主にペロブスカイトとマグネシオヴスタイト相から構成されている。
 △ 地球の下部マントルは主にペロブスカイト(perovskite)とマグネシオヴスタイト(magnesiowustite)相から構成されている。

参考文献

 「研究目的」と「研究計画・方法」の項目の注意書きとして、「…適宜文献を引用しつつ記述し、…」とあります。参考文献をきちんと引用しましょう。その際注意すべきことは、文章の中で主語として出てくる人名は文献(アルファベットの著者名, 年号)と独立させ、人名はカタカナに統一することです。アルファベットで統一しても良いかも知れませんが、とにかく申請書の中で統一することが重要です。
 ○ アメリカ人のロバート・ディーツとハリー・ヘスにより海洋底拡大説が提唱されると, 大陸移動説が評価されるようになった(Dietz, 1961;Hess, 1962).
 △ アメリカ人のRobert DietzとHarry Hessにより海洋底拡大説が提唱されると, 大陸移動説が評価されるようになった(Dietz, 1961;Hess, 1962).
 × アメリカ人のDietz (1961)とHess (1962)により海洋底拡大説が提唱されると, 大陸移動説が評価されるようになった.
 以下のように、人名ではなく文献(アルファベットの著者名, 年号)が主語となっている場合は次の通り。
 ○ その後、Dietz (1961)とHess (1962)が海洋底拡大説を提唱したことで, 大陸移動説が評価されるようになった.
 × その後、ディーツ (1961)とヘス (1962)が海洋底拡大説を提唱したことで, 大陸移動説が評価されるようになった.

その他

  • 「研究目的」の「@研究の学術的背景」は、特に専門外の審査員が読んだとき、審査委員の知的好奇心を満足させるように(何となく分かった気にさせるように)丁寧に分かりやすく書きましょう。図表を使うこともお勧めします。
  • 「研究目的」と「研究計画・方法」の項目については、ひたすらダラダラと文章を書くのではなく、研究計画の要点や研究の手順などを番号付きの箇条書きで書かれていると、文章にメリハリが付いて、また、審査委員の目にもとまりやすいです。例えば、「本応募研究では、…の手法を用いて、以下の三つの点について解明する。(1)…、(2)…、(3)…。」のような感じです。
  • 人件費として研究者(例えば、特任研究員やポスドク研究員、研究・技術スタッフなど)の雇用に係わる費用を計上する場合は、給与に加えて所属機関が払う社会保険料も加味しなければならない場合があります。具体的な額は所属機関の担当者に訊いてみましょう。